メタン発酵の仕組み

メタン発酵の仕組み

メタン発酵のメカニズム

メタン発酵はバイオガスプラントにおいては発酵槽の中で行われます。メタン発酵を簡単に表したものが下の図になりますが、見て分かるとおり、メタンが発生するまでに複数の過程があり、そのプロセスはとても複雑です。

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(1)加水分解
まずは酵素の働きにより、大きな分子が小さな分子に分解されます。たんぱく質はアミノ酸に、でんぷんやセルロースといった炭水化物は糖類に、脂質はグリセロール(糖類)と長鎖脂肪酸に分解されます。

(2)酸生成(発酵)
加水分解により小さな分子となった物質はそれぞれ、有機酸(酢酸や酪酸、プロピオン酸など)やアルコール類に生成されます。
アミノ酸は嫌気性微生物による発酵およびステックランド反応により、アンモニアと短鎖脂肪酸に分解されます。糖類は酵素の働きにより、ピルビン酸に分解され、水素、二酸化炭素、酢酸、その他中間生成物が生成されます。その中間生成物も最終的には酢酸、水素にまで生成されまる。長鎖脂肪酸はβ-酸化により、酢酸に分解されます。

(3)メタン発酵
最後の段階がメタン発酵菌の働きによるメタンの生成です。メタンの生成は大きく2種類存在し、1つは酢酸をメタンにまで分解するもの、もう一つは二酸化炭素と水素からメタンを生み出すものです。安定した状態では約70%のメタン生成は酢酸の分解によるものですが、残りの30%は二酸化炭素と水素から生み出されます。
4H2 + CO2 → CH4 + 2H2O
CH3COOH → CH4 + CO2

なお、メタン発酵の過程は化学的には以下の式で表されます。
上記化学式を用いて、原料の組成よりバイオガスの発生量、メタンガス濃度を求めることも理論的には可能ですが、現実的には発酵試験等を行って得られたバイオガス量の方が実態に近いものとなります。

メタン発酵に影響する要因

メタン発酵は様々な要因の影響を受け、環境によってバイオガスの発生量は大きく異なります。プラントメーカーの選定やプラント運営においては各要素を考慮することでより効率の良いバイオガス事業を営むことができます。

嫌気的環境

メタン生成菌は酸素のない嫌気的環境でないと生育できません。したがって、発酵槽は気密状態を保つ必要があります。バイオガスプラントに投入される原料に溶解している酸素も影響するため、酸素を必要とする好気性細菌酸素に使ってもらうなど、素早く消費されることが望ましいということになります。

温度

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メタン生成菌は30~37度程度の中温域で活動するものと、50~55度の高温域で活動するものがあり、発酵槽の温度はどちらかの温度帯に保つ必要があります。また、高温域で活動するメタン生成菌の方が許容温度帯が狭く、厳密な温度制御が求められます。

一般的に化学的な反応速度は10度上がるごとに2倍になることが知られており、高温域での発酵の方が発酵が早く進むため、発酵槽の容量を小さくすることが可能です。ただし、その分発酵槽に投入する熱エネルギー量は多くなります。

(左図:発酵温度と有機物負荷・バイオガス発生量の関係例
出典:家畜ふん尿処理施設の設計・審査技術(畜産環境整備機構))

pH

最適なpHは酸生成の段階とメタン生成の段階とで異なります。酸生成菌では、pH5〜6程度の弱酸性が好ましく、メタン生成はpH7.2程度とほぼ中性が好ましいです。そのため、バイオガスプラントでは発酵槽の手前に「可溶槽」を設け、加水分解・酸生成を行う槽とメタン発酵を行う槽を分ける場合があります。
槽を分けない場合にはpH7〜8程度の弱アルカリ性とします。これは酸生成の方がメタン発酵よりも反応速度が速いため、その速度を抑制して、有機酸の蓄積阻害(後述)を防ぐためです。ただし、メタン発酵のpHについては緩衝能力が高いため、よほどの事がない限りは自然とpHは7~8程度となります。

有機物負荷

バイオマスの発酵槽への投入速度はメタン生成菌の活動速度に合わせなければなりません。投入量が過剰になると、有機酸の生成は進むけれど、その有機酸を消費するメタン生成が間に合わず、有機酸が溜まっていくことになります。有機酸が溜まるとpHは酸性側に傾くためメタン発酵を阻害することとなってしまいます。
これを防ぐためには適切な有機物負荷とする必要があります。有機物負荷は中温メタン発酵では2~3kg-VS/m3・日、高温メタン発酵では、5~6kg-VS/m3・日程度が好ましいとされており、この数値に合わせた発酵槽の容量および原料の投入量を決める必要があります。